質的メディア分析~実践編02
スクリプト
「大女優田中絹代を18歳で演じる」
K子: アンタ 天罰てきめんよ。
T: 似てたんですか?
K子: 全然似てないわよ!ダメヨ!そんなこといっちゃ。
あなた(N.A.)、あの写真オバケみたいじゃん! このへん真っ黒じゃん!
分析事例1.
* 天罰てきめん
1 演じると何故天罰なのか?(歪曲)
* 全然似てないよ! ダメヨ!
1 K子が神様のような存在と思っている田中絹代に、似てないと演じられないのか(矛盾)
2 K子の基準でのレッテルを貼ることにより相手の価値をなくす。(制限のビリーフ)
* オバケ 真っ黒じゃん!
1 相手をおとしめ無力感をつくる。(制限のビリーフ)
2 真っ黒という表現の中に「色の白いのは七難隠す」といった差別がある。(歪曲)
田中絹代~清純派女優からスランプを経て大女優になった伝説の女優
「銃後を守る気丈な日本女性」としてのイメージが強かった田中絹代。
戦後アメリカにわたり、帰国時にアメリカナイズされたスタイルから批判が殺到、スランプに落ちいた。
その後、1952年(昭和27年)、同じくスランプ状態だった溝口監督の『西鶴一代女』に主演することとなった。
御殿女中から様々な運命をたどり、ついには街娼となって老醜をさらけ出すという女の一生を演じた。
この作品はヴェネツィア国際映画祭で国際賞を受賞し、田中絹代は一世一代の名演を披露し、
女優として完全復活を果たした。
天罰テキメンの二重の意味
1953年(昭和28年)には田中絹代と溝口監督という同じコンビで『雨月物語』を製作、作品はヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞した。
また、田中絹代は監督業も行ったが当時の映画会社の5社協定の関係もあり、作品数は少ない。
こうした田中絹代の経歴を考慮すると、K子の言動は、女優が監督業など女優業以外の活路を見出せないよう、
クギさす言動でもあるため、「行動への制限」をしているだけではなく、女は余計なことをするな、という意味にもとれるのだ。
全然似てないよ! ダメヨ!の本質的な意味
外見が似ていなければ、演じることができないというのであれば、
K子の思考では世の中の伝記映画はすべて否定されることとなる。
表現の自由は互いにあるものなので、一方的に抑圧するのはフェアーではない。
ダメという言葉は人格否定の言葉でもある。
徹底的に人格を傷めつける言葉を発する。
そして思考停止状態になったところで、
相手を完全服従させるため、やさしげな言葉をかけるのだ。
洗脳テクニックとして非常に危険であるため、要注意ワードだ。
「ダメ」を人に対して無意識のうちに使っているのであれば、要注意だ。
あなたも人に対して制限をかけているからだ。
人を否定するのではなく、行為を否定すること。
オバケ、この辺、真っ黒じゃん
写真の引用で黒く映っている画像に対するコメント
分析事例でも述べられているように、白い=よいという強いイメージがあるため、
黒いことが価値がないように思われている。
真っ黒・・・「おはぐろ」の意味
虫歯予防と昔の審美的な価値観よりおはぐろは性別に関係になく貴族の間での慣習となっていたことが遺跡などの調査でわかっている。
おはぐろにはタンニンという虫歯予防に効く成分が含まれているため、虫歯予防や歯槽膿漏予防のために広く普及していた。
しかし、戦国時代になると、結婚に備えて8〜10歳前後の戦国武将の子女がおはぐろをほどこし、成年のしるしとした。あたかも、女性割礼のようだ。
江戸時代になると皇族・貴族以外の男性の間ではほとんど廃絶された。
また、悪臭や手間、そして老けた感じになることが若い女性から敬遠されており、
既婚女性、遊女、芸妓の化粧として定着したようだ。
そうして結婚後、おはぐろをつけていたのは女性ばかりだったのだ。
白い=純潔さが結婚することで亡くなる、ということでもある。
歴史社会学者の渡辺京二は著書「逝きし世の面影」の中で、
お歯黒はマサイ族に見られるような年齢階梯制の表現であると考察している。
明らかに、故意に女性を醜くすることで女性の貞節を守る役割があると推測した
ラザフォード・オールコックの説が立証されたといえる。
お歯黒という儀式によって、妻の仕事、母の仕事に献身することを
外の世界に見える形で証明する、ということは彼女にはも自由がないのだ。
三界に自由なし・・・を隠喩しているのだ。
改めて、いろんな情報をしっかりと読み解く力が必要だということが身に染みる。
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