Realistic Fantasie

製薬会社のロビーイングと特許訴訟を乗り越えて

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抗レトロウイルス剤をインド・タイ・ブラジルはどうやって製造権を勝ち得たのか

サン・マイクロシステムズ会長兼CEOのスコット・マクネリーは

スタンフォード大学ビジネス・スクールの学生に講演で

「終身在職権を持った大学教授が市場経済について私にいったい何を教えてくれるのだろうか」

と問いかけました。その問いに答えたのがジョン・マクミランでした。

彼は著書「市場を創る バザールからネット取引まで」で、

製薬会社の厳しい特許権と戦いぬき、

途上国と中進国が抗レトロウイルス剤を生産する権利を勝ち得たのは

「新たな市場」を創ったから、と説いています。

新たな市場をつくるために

アメリカでは抗レトロウイルス剤が登場し、

この投与でエイズによる死者は1996年から1998年の2年間で70%下落しました。

とはいえ、この薬剤を受け取るには、常にCD4値の検査と看護師や

その他の医療従事者からの日和見感染予防の専門的なケアを受ける必要があります。

それらは1年間の経費は一人当たりおおよそ1万~1万5千ドル必要なため、

北米と西欧に限られ、その他の地域、エイズによる死者の比率が最も高いアフリカには

まったく届くことはありませんでした。

南アフリカのムベキ大統領はエイズに関する国際カンファレンスの開会スピーチで

南アフリカを覆う主要な死因は病気ではなく、貧困」と指摘しました。

たとえば、この薬剤の購買値が下がれば抗レトロウイルス剤を

アフリカ諸国は手に入れるチャンスは多くなります。

それだけではありません。

実際には薬剤と投薬に関するサービスができる医療施設を設けるということが前提になります。

製薬会社は市場のルールを受動的に受け入れているのではなく、積極的にルールを形成しています。

そのため製薬会社は市場設計に関する発言権の確保に余念がありません。

合衆国政府に対して厳しいロビー活動を行っており、

2000年の大統領選挙の際、

製薬業界だけでロビー活動への経費は1億6700万円を上回っています。

各国政府と国際機関は資金提供だけではなく、

市場設計特に知的財産権を管理するルールを再検討する役割も担っています。

特許制度は理想的な絵画存在しない問題に対する妥協の解決策です。

特許は公式に認可された独占であり、独占利潤の見込みを提供することによって

イノベーションの強力なインセンティブとなっています。

このように特許を得ることが出来るという見込みが

抗レトロウイルス剤や他の感染症のワクチン開発を促進したといえます。

しかし、特許システムにはマイナスの面もあります。

特許による独占によって可能となる非常に高値の設定は

イノベーションを行ったものに報酬を当てます。

しかしながら消費者はその高値で購入可能な人に限られます。

そして、製薬産業のこのルールはモーゼの十戒のように変更不可能なものではありません。

途上国は「独自の知的財産ルール」設定~生きる権利

いくつかの開発途上国は自分たちの知的財産ルールを設定することによって独自の製薬市場を設計しました。

インドでは政府が食料と医薬品に対して製品特許を与えないという選択をしました。

このため、製薬業者はアメリカやヨーロッパの会社によって特許が取得されている

医薬品のコピーを製造・販売してもよいのです。

ブラジルでは特許を無視した抗レトロウイルス剤の製造が行われているために、

多くのHIV感染者が特許がある場合は高すぎて治療を受けれなかったが、

受けることが出来るようになった。

1997年ブラジル政府は特許が存在する抗レトロウイルス剤の無許可コピーを

製造することを国内企業に奨励し、政府はこれらのコピーを購入し、患者に無料で与えました。

この政策のおかげでエイズによる死者の数が激減したブラジルは発展途上国の中で数少ない成功例となった。

ブラジル大統領フェルナンド・エンリケ・カルドーゾは

「これは真に劇的な政治的・道徳的問題である。

現実主義の観点から見なければならず、市場だけでは解決できない」と語っている。
南アフリカは1997年に強制ライセンスによって

必要不可欠な製薬を購入可能にする法律を通過させた。

これは特許を一方的に使用して、医薬品のコピーを製造もしくは輸入し、

特許所持者に事後的に特許使用料を支払うことを意味しています。

タイも医薬品の特許をくぐりぬけることを許す法案を通過させた。

多国籍製薬企業は発展途上国に意義を唱え、特許を無視することは非合法的だと非難し、

ブラジルに対して貿易制裁措置を科すようロビーを行いました。

これに対し、発展途上国の主張は命を救うために特許制度を廃止する必要があるというものです。

「われわれの国民が死んでいくときに、

少しでも命を延ばしてくれる薬へのアクセスをどうして否定されてよいものだろうか」

ケニア議会議員が問いました。

しかし、医薬品会社はイノベーションのためには特許が必要であると反論しました。

強制ライセンスのコストとしては医薬品会社の知的財産を無効にし、

薬剤をより低い価格で入手可能なものにするということは、低い利潤をもたらします。

この結果よい新薬開発のための研究を削減します。

しかし、エイズによる死者が少なくなるという便宜があります。

多くの命が救われ、寿命が延びるという便益は文字通り計り知れない大きさといえます。

絶対的貧困率が高い国々での特許無効化で得られる便益は

明らかに費用を上回っていることから、

緊急対策としてのエイズ薬剤の強制ライセンス賛成は圧倒的多数でした。

合衆国政府は当初開発途上国のようには自体を見ていませんでした。

クリントン政権は製薬会社のロビー活動から当初製薬会社側を擁護し、

コピー製薬を製造する国々への貿易制裁という脅しをかけました。

議会に対する1999年国務省報告には「我執国政府のすべての関係する機関」は

「南アフリカ政府が」その医薬品法案を

「撤回もしくは修正するように説得するための根気強く一致団結したキャンペーンを行っている」

と記述されている。

また、合衆国政府は世界貿易機関の中でブラジルに対し正式に不服申し立てを行い、

地元の企業に短沖行の特許で守られた製薬製造を許容しているブラジルは

国際的貿易ルールに違反していると主張した。

NGOの世論形成

国境なき医師団やオックスファムのような国際団体やイギリス慈善事業が世論を形成した

BBC、新聞は頻繁にHIV感染者の苦境をレポートした。

活動家は問題を政治的に議題にまで押し上げ、

副大統領アル・ゴアが大統領選挙キャンペーン時の当初スピーチ中に質問攻めをした。

アクト・アップはつくった墓やチョークでかたどった人体

そして「すべての国に医薬品を」というスローガンとともに

ワシントンDCのPhRMA本部前で「ダイ・イン」をパフォーマンスした。

こうした公共的圧力の結果2001年までに流れが変わった。

クリントン政権は路線を転向し、貿易制裁によって開発途上国への脅しをやめると宣言しました。

世界銀行と国連はこの目的のために基金を設置しました。

EUはより貧しい国には医薬品の価格をより低く抑えるような段階的価格設定と、

貧困国がジェネリック版を輸入しやすくする国際的特許ルールを改革する計画を提案した。

2000年には5つの主要な製薬会社はアフリカとアジアのために

抗レトロウイルス剤をもっと低い価格で提供するための協議に入ることに同意した。

2001年には主要な企業は欧米諸国での価格の1/10で抗レトロウイルス剤を開発途上国に供給した。

ここには薬が先進国に逆輸入されないようなプロセスを導入するという条件が付されていた。

そして、メルク社経営者パー・ウォルドオルセンは

「先進国政府は開発途上国が保険の社会的基盤と流通システムを構築することを支援する必要がある」としました。

 

この抗レトロウイルス剤の物語は消費者と権利擁護や保護団体、

メディアなどが市場の動きに修正を加えることが出来ることを示唆しています。

ブラジル、南アフリカ。タイのように市場ルールをかえるために積極的に活動した国々が

民主的であると同時に民衆からの圧力に敏感な政府を持っていたことはおそらく偶然の一致ではないでしょう。

しかし、アフリカのような国でしか感染しない病気の場合はどうなるのか。

先進国で流行するまで待つのか?

これらはすでに研究者間で共有されており、

鳥インフルエンザ流行への対策としてエイズ対策の教訓が活かされています。

 


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